断る力 旅から訓練の機会を得る トルコでの経験②
店主は諦めません。一回り小さい絨毯を取り出してきました。
そして、またその素晴らしさとお得な価格を力説します。
「保証書もついているよ」、「日本人が好きだから、特別に安くするよ」と営業トークを繰り出してきます。
微笑みをたたえ、優しい雰囲気を醸し出すことを怠りません。
このような、優しいプレッシャー(?)をかけるのは上手いですね、特にお土産屋の店主さんたちは。
プレッシャーをかけていると感じさせない、物腰の柔らかい態度を保ち続けるのが、接客商売のひとつのコツですよね。
(私は疑い深いこともあり、他人からののプレッシャーを比較的感じやすいタイプですが)
「ご説明ありがとうございます。ですが、買えないのです。チャイもご馳走になりながら申し訳ございません」と席を立とうとします。
ですが、まだ店主は諦めません。今度はハンカチくらいのサイズの編み物を持ってきます。
改めてその素晴らしさとお得さを話し始めます。「旅の思い出にもなるよ」と購入を促してきます。
おそらく、この段階で、多くの日本人は購入してしまうのでしょう。
日本人が「No」と言えないのを彼らはよく知っています。
チャイをご馳走になり、優しく対応してくれる、また、安くはないが払えない額でもない。
このまま店を去るのはいたたまれないし、という心境になってしまいがちですからね。
ちなみに、この「チャイでのもてなし」というのが曲者です。
「返報性の法則」が働き、施しを受けた人は「何かをお返ししなくてはいけない」という気持ちになってしまうのです。
私は首を横に振りました。
店主の眼光が少し鋭くなっているのを感じました(笑)
私は「申し訳ございませんが、買うことができません。失礼してよろしいでしょうか」と、丁寧ながらも「鋭い眼光返し」(?)で応酬します。
店主は、それまでの温かみのある物腰から一転、
「出てけ!」
と大声で怒鳴りました。
「こんなにも急に人は変わるんだ」と少し驚きを覚えるとともに、ちょっとだけ不愉快な気持ちになって、その店を後にしました。
人から怒鳴られると気分が悪くなりますよね。ですから、いくら「訓練」とはいえ、気分を害したくない人には、このような方法をお勧めしません(笑)。
私たちは、普段の生活において、「断る」ことを躊躇しがちです。特に心の優しい人は他人のことを考えすぎて、自分を圧し殺してしまいます。
状況によっては、断れないこともありますよね。
ですが、安易に受け入れてばかりいると、それは癖になってしまいます。そして、その人の生き方として染み付いてしまいます。
意図的に「断る」訓練をすることで、その負の習慣が根付いてしまうことを防ぐことができると思います。
海外の押しの強いお土産さんと相対するのは、その訓練の絶好の場です。